yosi0605's blog

とりとめのない備忘録です

『今朝子の晩ごはん環境チェンジ!篇』(今週のお題:2009年秋の読書)

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 今週のお題は 「2009年秋の読書」です!
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と案内が来たので、もともと書くつもりであったけれど、読後レポートを書いてみる気になった。対象は『今朝子の晩ごはん環境チェンジ!篇』である。



直木賞作家、松井今朝子さんの公式ホームページのブログが文庫化されて、この最新刊で四弾目。これは、日々の晩ごはんのメニューとレシピを軽くマクラにして、日々の出来事、劇評、ニュースへの突っ込みまでがてんこ盛りになった「日記文学」であります。そして本職の「筆」の進み具合や周りの編集者との絡み具合も伺える、ファンにとってはたまらない内容になっています。


自分は元来女性作家がなぜか苦手で、一冊でも読んだことのある作家は本当に数えるほど。だから「この(女性)作家はいいね」と言える人はいませんでした。2007年上半期の直木賞松井今朝子さんが『吉原手引草』で受賞したときも、「買ってもいいかな」と思いつつ、積極的に手に取る気にはなりませんでした。そして松井さんの名前を忘れかけたころ、歌舞伎理解のため適当な入門書を探していたら、たまたまネットで『マンガ歌舞伎入門』を見つけて名前を思い出し、購入して読んでみたらこれがまた面白かったのでそのまま落語でも有名な実在した歌舞伎俳優、中村仲蔵を描いた『仲蔵狂乱』へ進んだのが昨年、2008年の春のことでした。そして今年四月、NHK教育の『知る楽』で放送された『極付歌舞伎謎解』のテキストを貪るように読みながら公式ホームページのブログを読むようになり、同時並行で以前の著作も追いかけるように読み始めて今に至るのです。


さて、ここから本の内容。


読むべきものがある「日記文学」とは極めて私的な事柄が同時代の証言となり、後から振り返って過去のその時がどういう時代だったかを浮き上がらせてくれるものだと考える。古くは大佛次郎の『終戦日記』であり、近いところでは池波正太郎の『池波正太郎の銀座日記(全)』などが浮かぶ。そして、この一連の『今朝子の晩ごはん』は十年後、二十年後に読みかえすのが楽しみな本である。最新刊の「環境チェンジ!篇」は2008年7月から半年の記録。これは公式ホームページを読み始めた時期と重なるのだが、ネットで一日分を読むのと、文庫で半年分をまとめて読むのでは印象が大分違ってくる。日々の文章でも感じられる「今、この時代の不安」は半年分まとめて読むと極めて深刻な事態なのだと認識させられ、特に昨年は政治の劣化が極まった時期だったのでなおさらだ。これについて、本の中から未読の方の楽しみを奪わない程度にいくつか引用すると、


九月二十日(土)手羽先とキャベツのトマト煮
<中略>
かつてある女性誌の編集長は「読者をバカだと見たほうが売り上げは伸びる」と断言したらしいが、自民党も「有権者をバカだと見たほうが票はゲットできる作戦」なんだろうか。結果、アメリカも日本もどうなるんでしょうか。

十一月十四日(金)上方寿司、三十品目サラダ
<中略>
 ところでなまじアドバイスをしたり聞いたりするのも考えものだと政府が思っているに違いないのは例の定額給付金だ。
<中略>
せっかくお金をあげようと言ったのに、ボロクソ言われちゃってる金持ちボンの構図はとても先進国の政治とは見えないのであります。それにしても自民党クラスではまたまた自分たちで選んだクラス委員が気に入らなくなって足を引っ張り始めてるみたいなんですけど、お前らええ加減にせーよ!と叱ってくれる担任の先生がどこかにいないんでしょうか。

十一月二三日(日)蕎麦と栗ご飯のセット
乗馬の帰りに東急レストラン街で食事。
<中略>
中にはシンボリルドルフダンスインザダークジャングルポケットの子もいたりして、名馬の子かならずしも名馬ならずという真実を突きつけられるかっこうなのだけれど、「一度あの子たちを集めて二世レースとかやったら面白そう。立派な血だけは引いてますとかいって」と女性会員がおかしそうに笑って仰言ったのを聞いたときには、まるでどこかの政党みたいだよねと思った私であります。


さすが、蜷川幸男氏にお客さんを前にした公開の対談で「この人はひどいんですよ」と笑顔で言われるだけあって(^^)、このように冷静に核心を突いた分析を加えてくれるのでした。是非四冊通しで読んでいただきたい!とお勧めできる本であります。そして十年後、二十年後に、この「今朝子の晩ごはん」を、何冊になっているか分からないけど、読み返して、「あの頃はひどい時代だったなぁ」と平和に回想できる未来であるように、ささやかにでも抵抗していたいと思ったりするのです。


ひょっとしたら、未来に読む「今朝子の晩ごはん」は未収録の2006年分から始まっている「完全本」の「超大作」になっているかもしれないと夢想する今日この頃なのでした。


だけど、松井さんの劇評を読んでいると、蜷川幸男演出「冬物語」(唐沢寿明、田中裕子)仙台公演を見のがしたのは悔やまれるなぁ。