yosi0605's blog

とりとめのない備忘録です

NHKラジオ第一【ビジネス展望】内橋克人さんの回より

衆議院が解散する日だった7月21日の早朝、NHKの朝の番組『ラジオあさいちばん』に評論家の内橋克人さんが登場した。この時のお話は聞きながら肯くことしきりだった。今週になり番組サイトでも聞けるようになったのだが、この音源も数週間で聞けなくなると思うともったいない感じがして、一念発起、テキストに起こしてみた。
話し言葉も手直ししてみようかと思ったが、時間もないことだし、ライブ感覚(^_^;)ということでご了承願いたい。「起こし」は初めてなので句読点も滅茶苦茶ではありますが、その点は内容に免じてお許しを。いや、それ以前にこういう事が許されるか判断がつきかねるので、詳しい方がいらしたらご教授願いたいと思います。
今回の「起こし」は毎日ちょこちょこやったんだけど、いや、疲れるもんですね。でも、これって「脳トレ」になるかも。


http://www.nhk.or.jp/r1/asa/business.html(7月21日放送分)



【ビジネス展望】 出演:内橋克人 「『暑い夏』に問われること」

アナウンサー:【ビジネス展望】です。今朝は評論家、内橋克人さんのお話。テーマは「『暑い夏』に問われること」です。内橋さん、おはようございます。

内橋:おはようございます。

アナウンサー:今日は午後にいよいよ衆議院が解散されますね。投票日8月30日まで選挙戦も熱くなりますが、この暑い夏の季節ますます暑くなりますですね。

内橋:そうですねぇ。

アナウンサー:さぁ、ここで何が問われるかのお話でございますね。

内橋:ええ、そういうことです。2006年9月ですね、小泉政権が去りましてからこの3年間にですね、安倍、福田、麻生と3人の首相がこの国を担ったわけですね。で、小泉以降の歴代政権というのは明暗含めてですね、プラスマイナス含めて小泉構造改革の遺産ですね、残されたもの、これにどう向き合うのか。とりわけですね小泉構造改革、残された負の遺産ですね、マイナス遺産、これを引きずりましてその重い負担に喘ぎ続けた政権だったと言えるのではないかと思います。
つまりですね2005年の4月(?)のことでしたが郵政民営化ですね、郵政解散、これによって衆議院で圧倒的多数を得たわけですね。言ってみればこれはプラス遺産とこういうふうに言えると思いますけど、他方で構造改革が生み出した新たな構造問題、格差とか貧困とかですね、これが時限爆弾となりましてですね、小泉政権が去った後も時を隔てて次々に炸裂いたしましてですね、ついには世界同時危機に遭遇しまして、矛盾が一挙に顕在化した、吹き出したと、こう言えるでしょう。
かつて小泉フィーバーに踊った当の有権者の目にもですね深刻な社会的矛盾と言いますか、これがハッキリと見える、可視化される、そういうふうになってきたと思うんです。格差、貧困、こういった言葉に象徴されますように、最も重要な問題は経済変動が起こりますとですね、その負の影響、マイナスの影響がですね社会的弱者、弱い人々に収斂してしまうと、そういう構造が生まれてしまったということなんだと思うんです。その上、絶えず新たに弱者を生み出す、社会的弱者を生み出していく構造、これが社会に組み込まれてしまったと、これは客観的に見て私はそうだと思うんですけど、そこに問題があるんではないかと思います。
したがって暑い夏に問われるのはですね、そうした構造を必然的に生み出すような構造改革、いったいこれがですね改革の名に値するのか、改革の名で叫び続けていいのか、それとも真の改革とは何かですね、それを問い直すと、それが今回選挙の最も重要なテーマだと考えるわけです。

アナウンサー:今のお話の中で経済変動のマイナスの影響が社会的弱者に収斂していくという仕組み、それはどういうことでしょうか?

内橋:例えば今回ですね、今日の解散によりまして、この国会で審議予定だった労働者派遣法改正案ですね、これも廃案になってしまったわけです。緊急を要する、最も重要なテーマだったはずだと思うんです。小泉構造改革の元で解禁されましたのが製造業への派遣労働の解禁、派遣労働を許したことですね。これは絶えず社会的弱者を生み出す仕組み、装置の一つだったと思うんです。派遣労働がなければ企業は成り立たないんだとか、働き方の自由化、多様化だと、こういう大義名分、これはですね私はトリックとかレトリックだと思うんですね。やはり企業としての成立要件、社会的責任とかですね、こういうものが問われているわけだと思います。その実態をよくよく知ればですよ。この実態というのは労働の差別化だと、こう思うんですね。例えば社会保障体系から排除された極めて低いコストの労働力を合法的に調達する手段なんですね。景気変動のクッションに外ならなかったと思います。その象徴が皆さんの目に見えるようになりましたのが去年歳末から新年にかけての東京日比谷での「年越し派遣村」だったと思うんですね。

アナウンサー:ああ、そうですね。

内橋:まぁ未だにですね、この派遣労働をもって労働の多様化だと言っている労働経済学者がいるんですけれども、これは是非ですね、きちんとした学問的な背景によって考えて、直していただきたいと思います。ILOの調査によりましてもね、この時間に以前にお話しいたしましたけれども、失業保険を受けることができていない失業者の割合、先進国の中で最悪の数字ですよね。実に8割近い失業者が失業保険を受けていないと。ドイツ、フランスですと10%そこそこなんですね。アメリカでさえ57%、こういう数字が出ております。
で、社会的弱者と申しますのは、こういう意味で非正規雇用者、あるいは障害を持つ人々、さらに高齢者ですよね、さらに健康を失って介護・医療を必要とするような人々、そして所得の低い人々ですよね。そういった弱者に経済が変動した場合に負の衝撃が集中しているというのが今の社会の明らかな現実だと、こういうふうに私は思います。

アナウンサー:何故その様な現実が私たちの社会をみまうようになったのか、これを内橋さんはどうお考えでしょうか?

内橋:ここが最も重要だと思うんですね。改革の中身を問わずにですね、改革というだけで、その言葉を聞くだけでですね、あの頃はマスコミも国民も熱狂してしまったんですね。それが今ですね、時限爆弾のようにですね、小泉時代に仕組まれた改革のしっぺ返し、これが時を隔てて炸裂の時を迎えているということだと思うんです。
小泉政権が改革の名において実行してまいりましたのはですね、新自由主義改革、これは明らかにそう言えると思いますね、今から振り返って総括しますと。これは、次に申しますような政策のパッケージによって成り立っていたんですね。パッケージですから一つ一つ取り上げてどうこう言ってもしょうがないんで、全体を一つとして行ってきた。ここが問題なんですね。
で、まぁ、大きく言いまして五つあると思いますが、第一にですね富裕層優遇減税、これを断行したわけです。所得再分配政策を拒否してですね、税制のフラット化、平板化と言いますか平面化ですよね。累進課税最高税率をうんと低くしてしまうと。これが一番目ですね。二番目に労働保護規制の撤廃です。これは明らかなところでありましてですね、解雇の自由と言ってもよろしいでしょう。労働の解体によって保護の対象の外になってしまう。つまり保護されない。そういう企業にとって有利な労働力ですね、それを大量に、合法的に生み出したと、こういうことだと思います。三番目に福祉社会保障の削り落とし、ということがあります。そして四番目にマネーに対してですねバリアフリーの社会に日本をしてしまったと。つまり障害も規制もない社会なんですね。自由にマネーが暴れ回ることができる社会になってしまっている。最後に市場競争至上主義と。これは、ずっとこの言葉は言ってきたんですね、私はですね。
こうしたことが国際競争力強化とか、グローバル化への対応とか、いろんな大義名分で強行された。大事なことはパッケージということで、一つだけ取り出して論じられない。全体としてと、こういう意味で申し上げているわけです。こうした結果ですね、社会を構成する様々な部門、家計というセクターと企業いうセクター、こういう間に乖離と格差が急速に拡大しまして、もう今はですね、ある意味で貧困マジョリティー、多数派ですね。それと富裕マイノリティー、少数派、この二つの階層に分裂してしまうという、不均衡国家への瀬戸際に立たされている危険な状況だと、こういうふうに私は考えます。

アナウンサー:まぁ、内橋さん、国民はあれですね、真に自分たちのためになる改革とは何か、一人一人が問わなければいけない、そういう時期ですね。

内橋:ええ、そういう時期だと思います。真の改革とは何なのか、人間が人間らしく生きられる社会をですね、どう築いていくのか、ここをですね原点から問い直すことが大切だと思います。
私はですね、まず第一に生きていく安全性が保証されていなければならない。これは物理的にも経済的にもという意味です。それから生き方の選択が自由でなければならない。それが保証されていなければならない。三番目に社会的排除が無いということですよね。ある階層だけを排除していくとかいうことが無いということであります。そして社会的有用労働、介護とか医療とか、そういう現場で働く人々、社会が必要とする労働ですね、それが満たされているということで、医療の条件がですね持続可能であると。こうした五つの条件がですね、人間が人間らしく生きていける社会の条件だと思うんです。
以上に示しまたような五つの条件に答えられる社会の建設を目指してこその改革、ということであって、有権者はこうした大きな視点からですね、候補者を選ぶべきだと思います。ま、見識を持って選挙に臨まなければならないと、こういうことではないでしょうか。

アナウンサー:はい。内橋さん、今朝のお話ありがとうございました。

内橋:はい。どうもありがとうございました。

アナウンサー:今朝の【ビジネス展望】、「『暑い夏』に問われること」。評論家、内橋克人さんでした。